東京高等裁判所 昭和63年(う)618号 判決
所論は,要するに,(1)…中略…,(2)原判決は,本件無線機の使用について被告人らが違法性の意識を有していなかったことを事実上認めながら,違法性の意識を有する可能性があったとしたが,その理由となる事実の認定に重大な誤りがあり,右事実の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである,(3)原判決は,被告人らが本件各所為につき故意を欠くとの弁護人の主張につき,違法性の意識の欠如を主張するものであってそれ自体失当であると判断しているが,電波法に定める無線局運用罪が成立するためには,電波法4条但書に該当する事実も構成要件該当事実と考えられるから,被告人らも構成要件該当事実すなわち発射する電波が著しく微弱でなく,かつ,市民ラジオの無線局でない無線局を運用していることを認識していることを要するにもかかわらず,被告人らは無線機を運用していた事実については認識していたものの,免許を必要とする出力の無線機を運用していた事実については認識を欠いていたのであるから,故意を欠き無罪であるのに,原判決にはこの点判断に誤りがあり,結局,原判決はいずれの見地からも破棄を免れないというのである。
そこで,原審記録及び証拠物を調査検討すると,原判決が…中略…認定説示した各事実は,関係各証拠に照らしこれを肯認することができ,当審における事実取調べの結果を考え合わせても,原判決には所論指摘のような事実誤認はなく,また,右各事実を前提として行った法令の解釈適用は結論的に誤りがないものと考えられる。以下,補足して説明する。
(1)…中略…
(2) 違法性の意識を有する可能性について検討すると,原判決は,「弁護人の主張に対する判断」の二(2)の項で,被告人らには本件無線機の使用について違法性の意識があったことは証拠上これを認めることができないが,違法性の意識の欠如は故意を阻却しないとしたうえ,本件無線機を無免許で使用することが違法であると認識しうる可能性は十分にあったと考えられ,被告人らがこれを認識しなかったことに相当な理由があったということはできないと認定説示しているところ,これは結論的に正当として是認できる。この点,関係各証拠を検討すると,被告人らを含め山谷争議団らが無線機を使用するにあたり,法規関係について解説してある本を読んだり電気店の店員らから説明を受けるなどしていたことは一切窺われず,したがって,電波法の関係規定を知っていたかどうかも不明であり,更には違法性の意識についてもこれを欠いていたのではないかという疑いが残ることとなる。しかし,無線機を使用することについては,いわゆる子供の玩具以外の場合,一定の法的規制があるというのが一般社会において常識的になっており,また,山谷争議団の者らにおいては,池尾荘で発見された6個の無線機がいずれもその使用に関し免許を要する機種であったのであり,池尾荘に設置したスーパーディスコアンテナも無線機の使用に際し用いられる器具の一つであったのであるから,これらの物を購入などする際には電気店の店員らに対しその使用について法的規制があるかどうか確かめることにより,免許が必要なことを容易に知ることができたものと認められる(本件無線機と同種の無線機の取扱説明書には,免許を要することの直接的な記載はないが,間接的にそれを窺わせる記載がある)。したがって,被告人らは,違法性の意識を欠いたことについて相当な理由はなかったもの,いいかえると,違法性を意識することのできる可能性のあったことが十分認められるので,本件各所為について故意を欠くとは認めることができない。この点,被告人らに故意のあることを認めた原判決に誤りはない。論旨は,理由がない。
(3) 免許を必要とする出力の無線機を運用していた事実について認識を欠いていたとの主張について検討するに,原判決が弁護人らのこの点の主張は違法性の意識の欠如をいうに過ぎないものであって,それ自体失当であるとしたことは,所論指摘のとおりである。この点,所論は,免許を受けないで無線局を運用する罪の故意として,操作する無線機についてその出力が免許を必要とする強さ以上のものであるという認識が必要であるというのであるが,電波法4条,110条1号は,無線局の開設,運用には原則として郵政大臣の免許が必要であることを定めたもの,いいかえると,免許を受けない者が無線局を開設,運用することを禁止することを定めたものであり,4条但書は,右原則的禁止に対し,電波が著しく微弱な場合などを法定の除外事由として定めたものと考えられ,したがって,故意としては無線設備―本件においては無線機―を操作して送受信を行うという認識(認容)のほか免許を受けていないという認識があれば足り,操作する無線機の出力が免許を要する範囲に入っているかどうかについては認識を要しないと解される。そして,被告人らにおいては,前記(2)で述べたように電波法の関係規定を知っていたとは認められないので,本件で使用した無線機の出力が免許を要する範囲に入っているということの認識があったとは認められないが,これによって故意を欠くものとは認められない。
以上から結局,原判決においてその理由とするところは維持できないが,結論として故意を欠かないとした判断は誤りでない。論旨は,理由がない。